「単位を落としたら、留年になってしまうのだろうか」——通信制高校の留年について調べている方の不安は、ほとんどここに行き着くのだと思います。全日制のイメージのままだと、1科目のつまずきが「1年まるごとやり直し」に直結するように見えますよね。

私は通信制高校の卒業生です。しかも、在学中に単位を落とした科目が何個もある当事者でした。この記事では、次の3つを整理します。

  • 通信制に「留年」という仕組みがあるのか、公的な制度の側から確認する
  • 単位を落としたあと、実際にどういう流れになるのか
  • 卒業が延びると何が変わるのか(学費・在籍年数・周囲とのズレ)を正直に書く

通信制高校に留年はありますか?

結論から書きます。学年をまるごと繰り返すという意味での「留年」は、単位制をとる通信制高校では基本的に起こりません。

言葉の整理から始めます。留年(原級留置)とは、その学年の課程の修了が認められず、同じ学年をもう一度やり直すことです。 注目してほしいのは、この仕組みが成立するには前提が要るということ。「学年ごとに区切られた課程」があって、その区切りごとに進級の判定があるからこそ、そこで足止めが起きます。

ところが、多くの通信制高校にはこの区切りがありません。文部科学省の「単位制高等学校について」(2026年8月8日確認)では、単位制高等学校を「学年による教育課程の区分を設けず、決められた単位を修得すれば卒業が認められる高等学校」と説明しています。同ページによれば、この単位制は昭和63年度に定時制・通信制の課程で導入され、平成5年度からは全日制の課程でも設置できるようになった仕組みです。

つまり、単位制とは、学年で区切らずに、修得した単位の合計で卒業を判定する方式です。 学年という関門がないので、そこで止まるという事態も構造上起こりません。

学年制(全日制に多い)単位制(通信制に多い)
教育課程の区切り学年ごと科目ごとの単位
進級の判定ある(学年末に判定)ない
つまずいたとき学年ごとやり直しになることがある落とした科目だけを取り直す
すでに取った分学年をやり直すと、修得済みの科目も再履修になることがある修得した単位はそのまま残る
「留年」という言葉成立する学年の区分がないため、当てはまりにくい

この表の4行目が、実はいちばん大きな違いです。学年制でやり直しになると、うまくいっていた科目まで一緒に巻き戻ることがあります。単位制ではそれが起きません。積み上げたものは減らないのです。

なぜ「学年をやり直す」ことにならないのですか?

単位が、科目ごとに独立して認定されるからです。ひとつの科目の結果が、他の科目の結果を巻き込まない設計になっています。

高等学校を卒業するために求められる要件は、法令で定められています。文部科学省の「高等学校の卒業に関する法令」(2026年8月8日確認)によると、卒業までに修得させる単位数は74単位以上とされ、あわせて3年以上の在籍特別活動の成果が求められます。また同資料では、修業年限について全日制の課程が3年であるのに対し、通信制の課程は「3年以上」と定められていることも確認できます。

N高グループの公式コラム「通信制高校の卒業の要件とは?」(2026年8月8日確認)と公式のよくあるご質問(同日確認)でも、卒業要件は次の5つとして案内されています。

#卒業の要件
1高等学校の在籍年数が3年以上
2必履修科目をすべて履修している
3合計修得単位数が74単位以上
4特別活動の必要時間数を満たしている(学校案内2026年版では卒業までに30単位時間以上)
5在籍期間の学費および諸費用をすべて納入している

ここに「各学年で規定の単位を取ること」という条件が入っていない点に注目してください。求められているのは合計です。だから、ある年に取りこぼした単位があっても、卒業までの合計で74単位に届けばよい。3年目までに揃わなければ、4年目で揃えればいい——それが単位制の考え方です。

74単位を貯金にたとえると分かりやすいかもしれません。目標額は決まっているけれど、毎月いくら貯めるかは決まっていない。 ある月に入金できなくても残高がゼロになるわけではなく、次の月にまた入れればいい。

単位そのものの仕組み(レポート・スクーリング・試験の三点セット)については、通信制高校とは?仕組みと全日制との違いで詳しく書いています。

単位を落としたあと、何が起きるのですか?

流れは4つの段階に整理できます。全体像を先に図で示します。

  1. その年度の単位が認定されない

    レポート・スクーリング・テストなどの要件を期日までに満たせなかった科目は、その年度では修得できません

  2. 翌年度以降にもう一度履修する

    対象は落とした科目だけ。すでに修得した単位はそのまま残ります

  3. 再履修した科目の単位を修得する

    レポートを出し、スクーリングに出て、テストを受ける。要件を満たせば単位になります

  4. 合計74単位に到達したら卒業

    在籍年数・必履修科目・特別活動の要件とあわせて満たせば、卒業が認定されます

いちばん大事なのは2段目です。やり直すのは落とした科目だけで、学年ごと巻き戻るわけではありません。 数学を落としたなら数学を取り直す。それ以外の科目は、修得済みの単位として残ったままです。

もちろん、その分だけ卒業までの時間が延びる可能性はあります。ここが「留年」と混同されやすいところですが、中身はかなり違います。全日制の留年が「1年分をすべてやり直す」ものだとすれば、単位制は「足りない分だけ足す」もの。同じ「卒業が1年延びる」でも、その1年でやることの量がまったく違うのです。

そしてもうひとつ。落とした科目を取り直しても、卒業までの合計年数が変わらないケースもあります。もともと3年で74単位ちょうどを狙う計画でなければ、翌年度の履修計画に落とした科目を組み込むだけで吸収できるからです。「単位を落とした=卒業が延びる」と自動的に決まるわけではない、というのは知っておいて損のない事実だと思います。

どんなときに単位を落とすのですか?

単位が認定されないのは、科目ごとの認定要件のどれかを期日までに満たせなかったときです。裏を返せば、要件を知っていれば、つまずきそうな場所も先に分かります。

N高グループの学校案内(2026年版・公式パンフレット)と公式コラムによると、科目の単位が認定される要件は次のとおりです。

  • その科目に定められたレポートを、期日までにすべて提出している
  • スクーリング(面接指導)の必要時間数を満たしている
  • テストで合格基準点以上をとっている
  • 評定が2以上である
  • 必要な提出物を全て提出している

この5つのうち、どれかひとつでも欠けると単位になりません。実際に起きやすいつまずきを、原因ごとに整理してみます。

つまずきの入口何が起きるか詳しく書いた記事
レポートが期日に間に合わない最も多い入口。要件の1つ目が崩れるレポートが間に合わなかったら
テストが合格基準点に届かないN高の場合、追加課題で挽回する仕組みがある単位認定試験とは?
スクーリングに出られない必要時間数を満たせないスクーリングは年何日?
学費・諸費用の未納卒業要件そのものに含まれている学校へ早めに相談を

経験者としての実感を書くと、最初に倒れるドミノは、ほぼレポートです。 テストは年に数回のイベントなので、直前に集中すれば形になります。スクーリングも日程が決まっているので予定に入れられます。ところがレポートは日常で、しかも提出しなくても翌朝誰にも会わない。ここが崩れると、あとの要件も連鎖的に崩れていきます。

テストが基準点に届かなかった場合の公式の仕組み(追加課題で繰り返し挑戦できること)は単位認定試験の記事にまとめました。この記事では「落としたあと」に絞ります。

私は、単位を何個も落としました

ここからは当事者としての話をします。念のため書いておくと、私が単位を落としたのはN高ではなく、別の通信制高校です。学校も時代も違うので、「通信制で単位を落とした一人の話」として読んでください。

「何個も落とした」と書くと、よほど勉強ができなかったのだろうと思われるかもしれません。テストについても、正直なところを書いておきます。

では、何が原因だったのか。当時の自分を振り返ると、答えははっきりしています。

もうひとつ、当時いちばん心を占めていたものも書いておきます。

そして、それでも卒業できた理由をひとことで言うなら、こうなります。

卒業が延びると、何が変わるのですか?

ここからは、安心材料ではない話を正直に書きます。「留年がない」ことと「いくらでも大丈夫」は、まったく別のことだからです。卒業が延びたときに実際に変わるのは、次の3つです。

1. 学費が延びる可能性がある

在籍が1年延びれば、その年度分の学費や諸費用が追加でかかる可能性があります。お金の資格を持つ者としてはっきり言いますが、ここは家計の計画に直接効いてくる部分です。

ややこしいのは、費用の計算方法が学校によって違うことです。年間の授業料をもう一度まるごと支払う形の学校もあれば、再履修する単位数に応じた負担になる学校もあります。さらに、高等学校等就学支援金の支給には上限が設けられているため、在籍が長くなると支援金の対象外になる期間が出てくることも考えられます。

金額の見当をつけたいなら、「4年在籍した場合の総額はいくらになりますか」と個別相談で直接聞くのがいちばん早いです。これはパンフレットの学費表を眺めていても分かりません。

2. 在籍できる年数には上限がある

卒業までの年数に下限(3年以上)があるのと同じように、在籍できる年数の上限も、学校ごとに学則で定められています。 無期限に在籍し続けられるわけではありません。

この上限が何年かは学校によって異なり、公式サイトに書かれていないことも珍しくありません。「在籍できる年数の上限は何年ですか」——資料請求や個別相談で聞けば答えてもらえる、事実確認の質問です。

3. 同学年の人と、年齢がズレる

そして、実際に体験した側として書いておきたいのがこれです。

「留年がない」を、安心の理由にしすぎないでください

この記事でいちばん誤解されたくないのは、ここです。単位制に留年がないのは、卒業のハードルが低いからではなく、判定の方法が違うだけです。

74単位という総量は変わりません。3年以上の在籍という下限も変わりません。落とした科目は、いつかどこかで取り直す必要があります。先送りできるだけで、消えるわけではないのです。

もうひとつ、数字に出ない部分の話もしておきます。単位を落として卒業が延びると、周りの同級生が先に卒業していきます。この状況で気持ちを保てるかどうかは、制度の説明ではカバーできない領域です。

私が落としたあとにやったことは、2つでした。落とした科目を取り直すことと、卒業までの期限そのものを組み替えることです。1年目に落として、2年生で4年制に切り替えました。自分で決めて延ばすのと、気づいたら延びていたのとでは、受け止め方は違ったと思います。

単位を落とさないために効くのは、根性ではなく仕組みです

対策の話をします。結論から言うと、「次はがんばる」という決意より、生活の中に杭を打つほうが効きます。

私が単位を落とした原因は、学力ではなく段取りと生活リズムでした。同じ原因でつまずいている人に「やる気を出そう」と言っても、たぶん何も変わりません。変わるのは、やらなくても済んでしまう状態を、やらざるを得ない状態に置き換えたときです。

具体的な挽回の手順(残り本数の数え方、1本あたりの所要時間の測り方など)はレポートが間に合わなかったらどうなる?にまとめたので、いま遅れている方はそちらを読んでください。

転入・編入した場合、これまでの単位はどうなりますか?

前の高校で修得した単位が引き継がれる場合があります。ただし、扱いは状況によって変わるため、ここは断定を避けて書きます。学年別にいつまで移れるのか、どこから逆算して動けばいいのかは通信制高校への転入はいつまでにできる?高1・高2・高3の期限と単位の引き継ぎにまとめました。

N高グループの公式サイトのよくあるご質問(2026年8月8日確認)では、卒業要件の説明に続けて、編入学・転入学の場合は前籍校の学習が加味される場合があること、そして休学期間中は在籍期間に含まれないことが案内されています。

一般論として整理すると、次のような違いがあります。

転入学(転入)編入学(編入)
タイミングいまの高校を辞めずに移る一度高校を辞めたあとに入り直す
在籍期間途切れないため通算しやすい辞めていた期間は在籍年数に含まれない
単位の引き継ぎ引き継げる場合が多い修得済みの単位は引き継げる場合があるが、条件を確認する必要がある

つまり、在籍を切らずに移るほうが、時間の面では有利になりやすいということです。すでに在籍している高校を辞めるか迷っている段階なら、辞める前に相談するほうが選択肢が広がります。

また、すでに退学を考えている・してしまったという段階の方には、高校中退は人生終わり?で編入・高卒認定という次の道を整理しています。

「3年で卒業できないかもしれない」と感じている方には、あえて4年かけて卒業した経験を書いた通信制高校は4年で卒業してもいいもあります。

まとめ:留年という言葉より、74単位という数字を見てください

最後に要点を整理します。

  • 留年(原級留置)とは、学年の課程の修了が認められず同じ学年をやり直すこと。学年の区分がある学校で成立する仕組みです
  • 通信制高校の多くは単位制で、文部科学省の説明どおり「学年による教育課程の区分を設けず、決められた単位を修得すれば卒業が認められる」方式(2026年8月8日確認)。学年をまるごと繰り返す概念が基本的にありません
  • 単位を落としても、取り直すのは落とした科目だけ。修得済みの単位は残ります
  • ただし卒業要件(在籍3年以上・74単位以上・特別活動)は変わりません。落とした分は消えるのではなく、先送りされるだけです
  • 卒業が延びると、学費・在籍年数の上限・同学年とのズレという現実的な影響が出ます。私自身、年齢のズレを聞かれる場面は何度もありました
  • 在籍年数の上限や延長時の学費の扱いは学校ごとに違います。募集要項と個別相談で確認してください

私は単位を何個も落としましたが、通信制高校を卒業して、いまは会社を経営しています。だから「落としても取り返せる」とは言えます。ただ同時に、取り返すための時間とお金がかかることも書いておきたかった。どちらも本当のことです。

在籍年数の上限や、延長したときの費用は、資料と個別相談でしか確かめられません。気になる点をメモにして、資料請求と個別相談で一つずつ潰していくのが、この不安をいちばん早く小さくする方法だと思います。