通信制高校 偏差値」で検索して、このページを開いてくださったのだと思います。おそらく、志望校の候補を並べて比べようとしたのに、通信制だけ数字が出てこなくて手が止まった——そんなところではないでしょうか。

先に結論をお伝えします。通信制高校に偏差値はありません。 そして、それは情報が公開されていないからでも、数字が低すぎて伏せられているからでもありません。偏差値という物差しが成立する前提が、制度として存在しないからです。

私自身、学力試験ではなく面接が中心の入試で高校に入りました。数字で並べてもらえない進路を選んだ側です。だからこそこの記事は、感情論ではなく国の統計と法令だけで組み立てます。確かめるのは次の3点です。

  • 偏差値という数字が、なぜ通信制で計算できないのか(法令と算出の仕組み)
  • 全国323校で、実際にどんな選抜が行われているのか(文部科学省の調査)
  • 偏差値がない中で、学力について何がわかっていて、何がわからないのか

通信制高校に偏差値はありますか?

ありません。 全国のどの通信制高校にも、公式に算出された偏差値は存在しません。まずはこの「ない」の中身を、正確に分解します。

偏差値とは何を測っている数字か

偏差値とは、あるテストの得点が、同じテストを受けた集団の中でどのあたりに位置するかを表す数値です。 計算式は「(得点-平均点)÷標準偏差×10+50」。平均ちょうどなら50、上に行くほど60、70と上がります。

ここで押さえておきたいのは、偏差値が個人の学力そのものを測る数字ではないということです。測っているのは、あくまでその集団の中での相対的な位置です。同じ得点でも、集団が変われば偏差値は変わります。

そして「高校の偏差値」と呼ばれている数字は、学校が名乗っているものではありません。模試を運営する会社が、その学校を志望した受験生の模試成績と、実際の合否の結果を突き合わせて逆算した「合格の可能性が見えてくる学力ライン」です。

偏差値が成立するための2つの前提

つまり、ある高校に偏差値がつくには、次の2つが揃っている必要があります。

#前提中身
1共通の学力試験による選抜同じ問題を、多数の受験生が同じ条件で受けている
2模試データの蓄積志望校を書いた受験生の模試成績と合否が、業者側に何年分も溜まっている

全日制の公立高校でこれが成り立つのは、都道府県ごとに共通問題の学力検査が行われ、その地域の中学3年生の大半が同じ模試を受けているからです。「同じ物差しで測られた同じ集団」があるから、その中の位置を数字にできる。

通信制高校には、この2つがどちらも揃っていません。次の章から、それを国のデータで確認していきます。

なぜ通信制高校では偏差値が算出できないのか

制度そのものが、学力検査を必須としていないからです。 ここは推測ではなく、法令の条文で確認できます。

学校教育法施行規則第90条を読む

高校の入学者選抜の根拠になっているのは、学校教育法施行規則第90条です(e-Gov法令検索・2026年8月25日確認)。第1項はこう定めています。

高等学校の入学は、第七十八条の規定により送付された調査書その他必要な書類、選抜のための学力検査(以下この条において「学力検査」という。)の成績等を資料として行う入学者の選抜に基づいて、校長が許可する。

注目したいのは、その直後の2つの項です。

  • 第2項:学力検査は、特別の事情のあるときは、行わないことができる
  • 第3項:調査書は、特別の事情のあるときは、入学者の選抜のための資料としないことができる

学力検査を行わない選抜が、法令の中にきちんと用意されている。 これは通信制だけの特例ではなく、高校全体の規定ですが、実際にこの規定を広く使っているのが通信制の課程です。

不登校を経験した生徒を対象に学力検査を課さない公立高校の選抜が実在することも、同じ規定の延長にあります。この点は不登校から高校受験はできる?4つの選択肢と、私が実際に選んだ道で、都道府県の実例を挙げて整理しました。

「入口で絞る学校」ではなく「出口で担保する学校」

通信制高校は、働きながら学ぶ人や、さまざまな事情で全日制に通えない人を受け入れる課程として整備されてきました。入口を学力で狭くしてしまうと、この役割が果たせません。

代わりに質を担保しているのが卒業要件です。卒業には74単位以上の修得が必要で、これは全日制でも通信制でも変わりません。添削指導(レポート)、面接指導(スクーリング)、試験——この3つを積み重ねて単位にしていきます。仕組みそのものは通信制高校とは?仕組みと全日制との違いを卒業生が解説にまとめています。

測るタイミングが「入口」ではなく「在学中から出口まで」に置かれている。 偏差値がないのは、そのぶんの物差しが別の場所にある、ということです。

【全国データ】通信制高校の入試では実際に何が行われているのか

いちばん多い選抜方法は面接で、323校中296校が実施しています。 ここからは文部科学省の調査で実態を見ます。

参照するのは「令和7年度通信制高等学校実態調査に関する調査結果について」(令和8年8月31日公表・調査時点は令和7年5月1日/2026年9月16日確認)です。通信制課程を置く高校323校を対象にした書面調査で、選抜方法の集計が載っています(複数選択可)。

選抜方法別の実施校数を、設置者別に見る

全体の数字だけでなく、公立・私立・株式会社立に分けて見ると、傾向の差が見えてきます。カッコ内は各設置者の学校数に対する割合です(当サイトで算出)。

選抜の方法公立81校私立227校株式会社立15校全体323校
面接による検査67校(82.7%)216校(95.2%)13校(86.7%)296校(91.6%)
調査書等の書類による選考56校(69.1%)163校(71.8%)11校(73.3%)230校(71.2%)
小論文又は作文による検査33校(40.7%)114校(50.2%)7校(46.7%)154校(47.7%)
学力検査問題による検査15校(18.5%72校(31.7%4校(26.7%)91校(28.2%)
その他4校12校0校16校

ここから読み取れることを3つ挙げます。

1つめ。学力検査を実施している学校は、全体の3割弱にとどまります。 91校というのは決して「ゼロ」ではありませんが、面接の296校と比べると3分の1以下です。

2つめ。公立のほうが学力検査の実施率が低いという、少し意外な結果です。 公立は81校中15校(18.5%)、私立は227校中72校(31.7%)。全日制の感覚だと「公立=学力検査」ですが、通信制では逆転しています。公立通信制が、働きながら学ぶ人や学び直しの受け皿という本来の役割を強く残しているためだと考えられます。

3つめ。選抜方法は組み合わせて使われています。 表の実施校数を合計すると延べ787校分。323校で割ると、1校あたり平均2.4種類という計算になります(当サイトで算出)。面接296校と調査書230校を足すと526校分で、323校を203校分超えます。少なくとも203校(62.8%)は、この2つを併用していることになります。ただし1校が何種類を組み合わせているかの分布は公表されていないため、2.4はあくまで平均です。

1つの点数で受験生を1列に並べる構造になっていない。 これが、通信制の入試を数字で見たときの姿です。

なお、この調査の「面接296校に対し学力検査91校」という比較そのものは、不登校から高校受験はできる?でも進路の選択肢を並べる文脈で触れています。この記事では、そこから一歩進んで「では学力検査を実施している91校には偏差値がつくのか」という問いを扱います。

面接そのものの中身——何を聞かれるのか、公立は都道府県でどう違うのか、欠席が多い場合はどう扱われるのか——は通信制高校の面接で聞かれることは?に分けて書いています。

学力検査を実施している91校には、偏差値がつくのか?

つきません。 学力検査があることと、偏差値が算出できることは、別の話だからです。ここが、この記事でいちばん誤解されやすい部分だと思います。

先に挙げた2つの前提を、91校に当てはめてみます。

前提全日制(公立一般入試)通信制の学力検査実施校
問題の共通性都道府県で共通問題各校が独自に実施
受験する母集団その地域の中学3年生の大半学校ごとにばらばら
模試データの蓄積志望校別に何年分も蓄積ほぼ蓄積されない
偏差値の算出できるできない

共通の問題がなければ、点数を横に並べられません。 そして同じ模試を受けた受験生の志望校データが溜まらなければ、「この偏差値帯なら合格の可能性が見える」というラインを逆算できません。

さらに、先ほど確認したとおり通信制の選抜は複数の方法を組み合わせるのが一般的です。面接を実施していない学校は最大でも27校(323校-296校)なので、学力検査を実施している91校のうち少なくとも64校は、面接も併せて行っている計算になります(当サイトで算出)。点数だけで合否が決まる構造ではないため、点数と合否の対応関係が1対1になりません。

ネットで見かける「通信制高校の偏差値一覧」について

検索していると、通信制高校に具体的な偏差値の数字を付けているページを見かけることがあります。ここまで読んでいただいた方には、もうおわかりだと思います。

公的に算出された数字ではありません。 学力検査で全国的に選抜されていない以上、算出の材料が存在しないからです。それらは各サイトが独自の基準で付けた推定値だと考えるのが自然です。

数字を見かけたときは、誰が・どのデータをもとに・いつ算出したのかが書かれているかを確認してみてください。算出根拠が示されていない数字は、学校を比べる材料にはなりません。

偏差値がない中で、通信制高校の「学力」はどうなっているのか

入学時点の学力に幅があることを前提に、支える仕組みを持っている学校が一定数あります。 これも実態調査に数字があります。

学び直しを実施している学校の割合

同じ実態調査には、「既存科目の中で義務教育段階での学習内容の確実な定着を図るための指導を行っている学校数」という集計があります。いわゆる学び直しです。科目ごとに集計されています。

科目実施している学校数割合
数学Ⅰ130校 / 323校40.2%
英語コミュニケーションⅠ122校 / 323校37.8%
現代の国語96校 / 323校29.7%
歴史総合75校 / 321校23.4%
生物基礎71校 / 314校22.6%

(母数が科目によって違うのは、開講のない学校を除いているためです)

数学と英語で実施率が高い。 これは偶然ではないと思います。この2科目は前の学年の内容の上に次が積み上がる構造なので、中学範囲に空白があると高校の内容に入れません。だから学校側も、この2科目から手当てしている。

学び直しの内容が指導内容全体に占める割合も集計されていて、たとえば現代の国語で学び直しを実施している96校のうち、64校(66.7%)が「1〜2割」と回答しています。授業の大半を中学の復習に充てているわけではなく、必要な部分に差し込む形が主流だ、ということです。

偏差値で輪切りにされていない学校が、輪切りにされていないことを前提に仕組みを作っている。 データはそう読めます。

「同じ学年が同時にゴールする集団」ではない

もうひとつ、偏差値という考え方が通信制になじまない理由があります。そもそも同一の集団として動いていないのです。

実態調査には、令和6年度の卒業生90,872人を在籍期間別に分けた集計があります。

在籍期間卒業生数割合
3年間42,667人47.0%
1年以上3年未満38,209人42.0%
0年以上1年未満5,853人6.4%
4年間1,775人2.0%
3年より長く4年未満1,098人1.2%
4年より長く6年未満755人0.8%
6年以上515人0.6%

(割合は当サイトで算出。四捨五入のため、合計は端数分だけずれます)

在籍3年未満での卒業が、あわせて44,062人・48.5%。 学校教育法第56条により高校の修業年限は3年以上と定められているので、その学校での在籍が3年に満たないまま卒業した人は、前に別の高校や別の課程に在籍していたことになります。つまり転入学・編入学で入ってきた生徒です。ただしこの調査に、転入・編入の理由や内訳の集計はありません。この数字から言えるのは、卒業生のおよそ半分は、その学校に3年間いたわけではないということまでです。

同じ調査では、令和7年5月1日時点で4年以上在籍している生徒が19,271人いることもわかっています。割合は6.8%(令和4年度以降に開校した73校を除いた在籍生徒281,606人に対する比率)。

15歳の春に一斉に入学して、18歳の春に一斉に卒業する——通信制はその形をとっていません。同一の集団が同時に同じ試験を受ける構造がないところに、集団内の相対位置を示す偏差値を持ち込むことには、そもそも無理があるわけです。

なお、4年かけて卒業するという選択については通信制高校は4年で卒業してもいい|4年制を選んだ私の話に、自分の体験も含めて書きました。

卒業後の進路は、別のデータで見る

「学力が心配」という不安の行き着く先は、たいてい進路です。ここは数字が出ています。

文部科学省の学校基本調査(令和7年度)によると、令和6年度間に通信制課程を卒業した91,809人のうち、大学等進学者は26,301人で28.6%。高等学校(全日制・定時制)等の61.4%とは差があります。この差の中身と、学校選びで動かせる部分については通信制高校から大学進学は難しい?データで見る28.6%と、学校で変わる部分で詳しく分解したので、そちらを見てください。ここでは深入りしません。

偏差値では測れないけれど、出口の数字は公開されている。 学力について知りたいなら、入口の推定値ではなくこちらを見るほうが、はるかに実のある判断ができます。

経験者から見た、偏差値では見えない生徒層のこと

通信制の教室にいるのは、学力で輪切りにされた同質な集団ではありませんでした。 ここは統計ではなく、自分が見てきたものを書きます。

「仕方なく来た子」ばかりではない

もうひとつ、いまの通信制について。私が卒業してから20年近く経っていて、当時と今では状況がかなり違います。

数のうえでも、通信制はもう珍しい進路ではなくなりました。文部科学省「学校基本調査」の令和7年度確定値によると、通信制課程の生徒数は305,197人、通信制課程を置く高校は333校(2026年8月25日確認)。高校生のおよそ10人に1人が通信制に在籍している計算になります。この規模感については「通信制高校はやめとけ」は本当?で詳しく扱いました。

(実態調査の対象が323校、学校基本調査が333校と数が違うのは、実態調査が調査時点で在籍生徒のいない学校などを除いているためです)

偏差値がないと、学校はどこまで数字で比べられるのか

制度上は比べられるはずですが、実際に公表されている度合いには学校差があります。 ここは正直に書きます。

法令は「進学者数・就職者数の公表」を求めている

高等学校通信教育規程第14条第1項は、通信制課程を置く高校に対して、9つの事項の情報公表を求めています(e-Gov法令検索・2026年8月25日確認)。その第5号がこれです。

入学、退学、転学、休学及び卒業に関すること(入学者の数、在籍する生徒の数、退学若しくは転学又は卒業した者の数並びに進学者数及び就職者数その他進学及び就職等の状況を含む。)。

つまり進路の状況は、公表すべき情報として法令に書かれているわけです。偏差値の代わりに、これを見ればよい——理屈のうえではそうなります。

実際の公表状況

ところが、実態調査で公表状況を見ると、次のようになっていました(本校323校)。

第5号(入学・卒業・進路の状況)学校数割合
公表している103校31.9%
一部公表している135校41.8%
公表していない85校26.3%

全部を公表しているのは3割強。 一方で、第8号の「授業料、入学料その他の費用徴収に関すること」は公表している学校が275校(85.1%)と高く、費用は出ているのに進路の数字は出ていない、という学校が少なくないことになります。

文部科学省のガイドライン(令和5年2月一部改訂)も、この情報公表について「例えば、学校ホームページにおいて情報の公表を目的とするウェブページを設けて、同条第1項各号に掲げる事項等を体系的に整理して発信するなど、分かりやすく周知することができるよう工夫して公表すること」と求めています。

だから「取りに行く」しかない部分が残る

偏差値という一列の数字がない以上、学校を比べるには個別に情報を集めるしかありません。そして進路の数字は、ウェブサイトに出ていないことが3分の1近くある。

学校選びの判断軸そのものは通信制高校の選び方|後悔しないための7つのチェックポイントに、N高という特定の学校の入試や学力の話はN高等学校に偏差値がない理由は?入試の仕組みと学力の実態にまとめてあります。この記事とあわせて読むと、全国の制度の話と個別の学校の話がつながると思います。

よくある質問

最後に、検索でよく見かける疑問に短く答えます。

Q. 内申点や出席日数は、通信制の選抜に影響しますか?
学校教育法施行規則第90条第3項により、調査書を選抜資料としないことも制度上は可能です。ただし実態調査では、323校中230校(71.2%)が「調査書等の書類による選考」を実施しています。見られていないわけではありません。 どう評価されるかは学校ごとに違い、公表されていないことも多いので、心配な場合は個別相談で確認するのが確実な方法です。

Q. 学力に不安があります。授業についていけますか?
学び直しの仕組みを持つ学校が一定数あります(数学Ⅰで40.2%、英語コミュニケーションⅠで37.8%)。ただし、6割前後の学校は実施していないという読み方もできます。学力に不安があるなら、この点は志望校ごとに確認しておいたほうがよいと思います。

Q. 偏差値がないなら、受験勉強は要らないということですか?
入試のための学力対策という意味では、多くの学校で必要ありません。ただし入学後は74単位以上の修得が求められますし、大学進学を考えるなら受験に向けた学習は別に必要になります。入口が緩やかであることと、その後が楽であることは別です。

まとめ:偏差値がないのは、数字が伏せられているからではありません

要点を整理します。

  • 偏差値とは、同じテストを受けた集団の中での相対的な位置を示す数値です。 共通の学力試験と模試データの蓄積がなければ算出できません
  • 文部科学省の実態調査によると、通信制課程を置く323校のうち学力検査問題による検査は91校(28.2%)。最多は面接の296校(91.6%)。実施校数を合計すると1校あたり平均2.4種類にあたります(当サイトで算出)
  • 学力検査を実施している91校にも偏差値はつきません。 各校独自の試験で、全国共通の母集団が形成されないためです
  • 学校教育法施行規則第90条第2項は、学力検査を「特別の事情のあるときは、行わないことができる」と定めています。制度が最初からこの形を認めています
  • 卒業生の48.5%は在籍3年未満(=転入学・編入学で入ってきた人。ただし調査に理由の内訳はありません)。同じ集団が同時にゴールする構造ではありません
  • 学び直しを実施している学校は数学Ⅰで40.2%、英語コミュニケーションⅠで37.8%。学力に幅があることを前提にした仕組みが存在します
  • 進路状況は法令上の公表事項ですが、全部公表している学校は31.9%。足りない部分は資料と個別相談で取りに行く必要があります

偏差値という数字は、学校を1列に並べて上から選ぶには便利な道具でした。それがない進路を検討するのは、最初は勝手がわからないと思います。

ただ、偏差値が測っていたのは入口の競争であって、その学校で何を学べるかでも、その子がどう伸びるかでもありませんでした。 通信制を選ぶということは、その一列から降りて、自分の子に合う条件を自分で並べ直すということだと思います。

手間はかかりますが、材料は公開されています。国の統計もありますし、学校ごとの資料もあります。数字で並べられない進路だからこそ、一次資料で見比べることが近道になる——通信制を出て20年ほど経ったいま、私はそう思っています。