通信制高校のメリットとデメリットを検索すると、似たような一覧がたくさん出てきます。「自分のペースで学べる」「学費が安い」「自己管理が必要」——どれも間違ってはいません。
ただ、私はそれらを読んでいて、いつも足りないと感じる視点がひとつあります。「いつの時点の話なのか」が書かれていないことです。
在学中に良いと感じることと、卒業して10年後に良かったと思うことは、まったく別です。逆に、在学中は気にならなかったのに、社会に出てから初めて出てきた不都合もあります。
私は中学時代に学校へ行けなくなり、そこから通信制高校に進んで卒業しました。卒業から20年以上が経っています。 いまは複数の事業を経営していて、通信制出身の子を雇う側でもあります。
だからこの記事は、在学中・卒業直後・20年後という3つの時間で区切って書きます。
通信制高校のメリット・デメリット早見表
先に全体像を出します。詳しい説明はこのあとに続けます。
| 時期 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 在学中 | 自分のペースで進められる/人間関係を仕切り直せる/学費を抑えられる/時間を別のことに使える | 進めなければ何も進まない/孤立に誰も気づかない/生活リズムが崩れやすい/周囲の目が気になる時期がある |
| 卒業直後 | 全日制と同じ高卒資格/推薦枠がある/早く社会経験を積める | 一般の選考では説明が必要になる場合がある/同学年と卒業年がずれることがある |
| 20年後 | 挫折の経験が強みになる/「調整する力」が続けられる力になる | ほぼ実害なし(ただし心残りは残る) |
注目してほしいのは、右下です。 20年後のデメリット欄に、私はほとんど書くことがありませんでした。ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
通信制高校の仕組みそのものについては通信制高校とは?で解説しています。
なぜ一般的な「メリット・デメリット」記事は当てにならないのか
批判のために書くわけではありません。構造上の限界があるという話です。
一般的なメリット・デメリット記事の多くは、在学中の話しか書いていません。理由は単純で、書き手が卒業生ではないか、卒業して間もないからです。
しかし進路を選ぶ保護者が本当に知りたいのは、たぶん在学中のことではないと思います。「この選択をしたあと、この子の人生はどうなるのか」でしょう。
私の経験から
私の親族にもN高に通っている子がいます。その子の親は通信制というものがわからず、私に相談してきました。
正直に言うと、私は昔の自分と重ねてしまって、親御さん以上に心配していました。
いまその子は学校に楽しそうに通っていて、卒業も見えています。やりたいことも見つかって、専門学校への進学に向けて動いています。その子の親も、いまは安心しています。
在学中の情報だけでは、この不安には答えられません。 だから時間軸で分けます。
【在学中】通信制高校のメリット
在学中に実感するメリットは、突き詰めると「調整できること」の一言です。
1. 学習量とペースを自分で調整できる
全日制は、授業が進む速度が決まっています。体調を崩しても、気持ちが沈んでも、授業は待ってくれません。通信制はここが逆です。
私の経験から
私が卒業できた最大の理由は、はっきりしています。若干サボってもどうにかなる設計だったことです。
テストは、授業に出てさえいれば最低ラインには手が届く難易度でした。基準に届かなかった科目もありましたが、直前に詰め込めば挽回できる範囲でした。出席についても、多少の抜けなら単位が成立する設計になっていました。
正直に言えば、私は自己管理ができる人間ではありませんでした。それでも卒業できた。仕組みに助けられたという実感があります。
2. 在籍年数を延ばせる
これは保護者にあまり知られていないので、独立させて書きます。
通信制は単位制なので、3年で卒業しなければならないという決まりはありません。
私の経験から
私は4年かけて卒業する道を選びました。振り返って、これが本当に一番良かったと思っています。
在学中に取りこぼした科目は、ひとつやふたつではありません。それでも学年をやり直す必要はなく、落とした科目だけを翌年に回せばよかった。取りこぼしが「積み残し」で済んで、「振り出し」にならない——この差は、経験してみるとかなり大きいものでした。
3年で卒業する前提だと、この余白がありません。私の場合、その余白があったからこそ最後まで続いたと思っています。
「3年で出られなければ失敗」という前提を外すだけで、選べる進路の幅が広がります。単位を落としたときの扱いについては通信制高校に留年はある?に詳しく書きました。
3. 人間関係を仕切り直せる
前の学校でつらいことがあった場合、これは実務的に大きな価値があります。
私の経験から
私が全日制を選ばなかった理由のひとつは、全日制だと中学で不登校だった頃の自分を知っている人と、また同じ高校になるからでした。人の目が気になるタイプだったので、これはかなり重い問題でした。
通信制なら同じ中学の子が少ない。すごく気が楽でした。
ただ、いま別の高校に在籍している方の場合、仕切り直せることと、移る手続きが噛み合うかどうかは別の問題です。単位の引き継ぎ・時期・お金という、あとから変えにくい3点は、通信制高校への転入で後悔しないためにで先に見ておくと判断しやすくなります。
4. 空いた時間を別のことに使える
通学に使う時間がそのまま空きます。この時間の使い方が、実は卒業後の差につながります。
私の経験から
私は2年生に上がって学校に慣れてきた頃、アルバイトを始めました。そこからほぼフルタイムで働いていました。家計のことはよくわかっていませんでしたが、家に少しお金を入れていました。
普段は登校が少なくて社会から離れていても、バイトで社会勉強やコミュニケーションの練習ができた。これは本当に大きな経験でした。
通信制時代を振り返って「やっておいて良かった」と思うことを一つ挙げるなら、私は迷わずアルバイトを挙げます。
ただし、平日の昼間が空いているからといって働ける量が増えるわけではありません。18歳未満に適用される労働時間や深夜業のきまりは通信制高校でバイトはできる?で整理しています。
5. 学費を抑えられる選択肢がある
これは学校によって大きく異なります。公立は比較的安く、私立は高くなりがちです。お金の資格を持って相談を受けている側から見ても、私立通信制の学費がネックで悩む方は実際に多いというのが実感です。
ただ、通信制の中でもコースによって金額が数倍変わる学校があります。「通信制=安い」とも「通信制=高い」とも言えません。
【在学中】通信制高校のデメリット
ここは正直に書きます。メリットとして挙げた性質が、そのまま反転します。
1. 自分で進めなければ、何も進まない
これが最大のデメリットです。そして、私はここでつまずいた側の人間です。
私の経験から
レポートの量は、いま思えばめちゃくちゃ少なかったんです。それなのに一人だとどうしても続かなくて、ギリギリに書いていました。数少ない友達に写させてもらったこともあります。
在学中、いちばん焦っていた記憶は何かと言われたら、レポートの締切が近いときです。毎回焦っていました。
興味深いのは、「学校に行きたくない」と思った記憶はほとんどないことです。私の敵はそこではありませんでした。単純に朝起きられず、そのままサボってしまった日が正直あります。
「自己管理が必要」という言葉は、通信制を紹介する記事にはたいてい出てきます。でも実際に効いてくるのは、意志の強さではなく、朝起きられるかどうかといった生活の細部です。ここは覚えておいて損はないと思います。
2. 孤立しても、誰も気づかない
注意したいこと
通信制では、姿を見せなくなった生徒がいても、それが問題として認識されるまでに時間がかかります。教室に固定の席がないので、「いない」という事実自体が可視化されにくいからです。
そして誰も家まで迎えに来ません。 これは干渉されない自由であると同時に、放っておかれる危うさでもあります。
3. 周囲の目が気になる時期がある
これは私の時代に特有の部分もあるので、時代差を含めて書きます。
私の経験から
当時つらかったことを正直に書きます。
私のころは今ほど通信制が多くなかったので、人に「通信制」と言うのが少し恥ずかしかった。そして、平日の昼間に外に出ていると、変な目で見られるのが少し辛かったんです。
ただ、この感覚がいつ消えたかもはっきり覚えています。自分にできることが増えてからは、突っ込まれることがなくなったし、気にならなくなりました。
この点については、いまは事情がかなり変わっています。詳しくは後述の「昔と今」の章と、「N高等学校は恥ずかしい?」と検索したあなたへに書きました。
4. 生活リズムが崩れやすい
登校が少ないぶん、朝起きる理由が減ります。これは仕組み上避けられません。
対処としては、公式の学校案内に載っていた在校生の言葉が参考になります。「午前中に授業を入れて、生活リズムを整えています」というものです。時間割がないからこそ、自分で時間割を作る。ここに尽きると思います。
【卒業直後】進学・就職でどうなるか
在学中の話が終わったので、次の時間軸に移ります。
まず事実の確認からです。通信制高校を卒業して得られる資格は、全日制の卒業資格と同一のものです。 大学や専門学校を受験する資格にも差はつきませんし、履歴書の学歴欄に「通信制」と書き分ける義務もありません。
知られていないメリット:学校推薦の枠がある
私の経験から
私は卒業後に就職しています。そのとき使ったのが学校推薦の枠でした。通信制にも、普通の高校と同じように推薦枠があります。
学校を通した就職だったので、面接で通信制について深く聞かれることはありませんでした。
「通信制だと就職の入口がない」というのは、私の経験からは事実ではありません。
正直に書くデメリット:一般選考では説明が必要な場合がある
推薦を使わず一般の選考を受ける場合は、話が変わってきます。
私の経験から
一般の面接を受けていたら、当時は少しマイナスに働いた部分はあったと思います。 ここは正直に書いておきます。
ただし、いまは通信制が当たり前になってきて、偏見も少なくなってきています。それに、いまは学歴も大事ですがスキルも大事な時代です。卒業後に専門学校に通ったり資格を取ったりで、そのあたりは埋められると思っています。
卒業後の進路については通信制高校から就職はできる?に詳しく書きました。
【20年後】いま振り返って、実際に損したこと
ここがこの記事の中心です。20年経ってから振り返ると、何が残ったのか。
実際に受けた不都合は、ひとつだけでした
先に結論から言います。通信制を卒業して損したと感じたことは、ありません。
これは強がりではなく、具体的に思い当たる実害がひとつしかない、という意味です。私は4年かけて卒業したので、同級生が高校を出た翌年が、私の卒業の年でした。
私の経験から
唯一の実害は、4年制を選んだことで、同学年の人と卒業年がずれたことでした。
そのため、「その辺の年が違って『どうしてなの』と聞かれることはよくありました」。
正直に書けば、これは4年制のデメリットです。メリットだけを書いても仕方ないので、ここは残しておきます。
ただ——受けた不都合を挙げろと言われて、20年かけて出てくるのがこれだけ、というのも事実です。
4年かけて卒業するとは実際どういうことなのか、そこで何が起きたのかは通信制高校は4年で卒業してもいいにまとめてあります。
気にしすぎなくてよかったこと
私の経験から
在学中、周りにどう思われるんだろう、変なイメージを持たれるんじゃないかと気にしていました。
でも、実際は社会に出てからそんなに困ることもありませんでした。
妻とも、深く話し込んだことはありません。結婚前にお互いの学校の話を少ししただけで、「ああそうなんだ」で終わりました。妻だけじゃなくて、世間の反応も大体そんな感じです。
身構えている本人ほど、周りは何とも思っていない。 これが20年後の実感です。
20年後になって現れたメリット
そして、在学中には想像していなかったメリットがあります。
私の経験から
いまの私の強みは、一度学校を挫折して嫌になったことがあるから、同じような境遇の人の気持ちがわかることです。
言い方は悪いですが、普通の人には理解できない気持ちがある。私はそういう人を理解できるから、経営者に向いているんだと思います。手助けしてあげたい気持ちがある。私のようになってくれたら嬉しいなと思います。
もうひとつあります。通信制で身についたのは、実は「サボる力」だったりします。しんどい時はちょっと休んだり、力を抜いたりする。それがいい息抜きになる。 一般的に大変だと言われる経営者を、メンタルが折れずに続けられているのは、そのおかげだと思っています。
頑張りすぎないでいい。
この「サボる力」の話は、通信制高校から就職はできる?と中学で不登校だった私が、通信制高校を選んで社会に出るまででも触れています。毎日きちんと通う力だけが、社会で通用する力ではないというのが、私が20年かけて確かめたことです。
それでも残っている心残り
いい話だけで終わらせるつもりはないので、最後にこれも書いておきます。
私の経験から
普通の高校に行って普通の青春を送ってみたかったという気持ちは、当時もありましたし、いまも少なからず残っています。
ただ、大人になってからもできることはいっぱいあります。 後悔しているかと言われたら、していません。私にとって良い選択だったと思っています。
学校自体、嫌な気持ちになることもありました。むしろそういう気持ちがあったからこそ、成長を実感しています。
後悔していないことと、心残りがないことは違います。 両方を抱えたまま「自分には良い選択だった」と言う。これが正直なところです。
昔と今で変わったこと(20年の定点観測)
私が卒業したのは20年以上前です。当時と今では、デメリットの中身がかなり変わっています。 ここを分けずに語ると判断を誤るので、独立させて書きます。
| 私が通っていた頃 | いまの通信制(N高など) | |
|---|---|---|
| レポート | 紙。提出は郵送か直接持参 | Web上で提出できる |
| 学習環境 | 教室も古かった | 映像授業・オンラインの学習室 |
| 世間の反応 | 説明が必要だった | 「通信制ね」で通じる |
| 生徒の様子 | さまざまな年代・背景の人がいた | 目的を持って選ぶ子が増えている |
私の経験から
いまの仕組みを見て正直に思うのは、Webでいろいろできる仕組みがすごくうらやましいということです。楽でいいなと思います。
世間の反応の変化も大きいです。通信制も当たり前になって増えてきたので、いちいち説明しなくても「通信制ね」で分かってくれる。 これはすごくいいことだと思います。
総じて、今のほうが全部いいです。昔あったら良かったなと思う部分が、ちゃんと反映されてきています。
つまり、私が在学中に感じたデメリットのうち「周囲の目」と「手続きの煩雑さ」は、かなりの部分が時代とともに解消されています。 古い体験談を読むときは、この点を差し引いて読んでください。
一方で、変わっていないものもあります。「自分で進めなければ進まない」「孤立しても気づかれにくい」——この2つは、仕組みの本質なので今も残っています。
注意したいこと
ただし、私は完全にネットだけで完結する形は良いとは思いません。外の人と関わる機会がゼロになってしまうからです。
「基本はWebで、たまに登校する」——この形がいちばん良いと思っています。私自身、ならして月3回ほどの登校がちょうどよかった。登校がゼロなら社会との接点を失っていたでしょうし、毎日通う形だったら、どこかで息切れしていたはずです。
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雇う側から見た、通信制出身者
もうひとつ、他ではあまり読めない角度の話を。私は学生を何十人と雇ってきました。
私の経験から
先に結論から。働く能力に違いはありません。
正直な観察も書きます。最初に仕事を覚えるのは、少し遅いと感じることが多いです。教育にも気を使います。面接でも、用意された返答はできるけれどアドリブが難しい子が多い。普段あまり人と話していないんだな、とわかります。
ただし、慣れてきてからは飲み込みが早かったり、真面目に頑張ってくれる子が多い印象です。
そして、これは自分がそうだったから言えることですが、そんなことは慣れたら話せるようになります。あまり気にしなくていいと思っています。
「通信制出身だから不利」というマイナスは、少なくとも私の採用基準には存在しません。 平日の日中に働いてもらえるので、正直かなり助かっているくらいです。
デメリットは、入学前の設計でかなり減らせます
ここまでのデメリットを、避けられない欠点ではなく手を打てる条件として整理し直します。
| デメリット | 打てる手 |
|---|---|
| 自分で進められない | 在籍年数を延ばす(3年→4年)。3年前提を外す |
| 生活リズムが崩れる | 通学日数のあるコースを選ぶ。午前に学習を固定する |
| 孤立に気づかれない | 保護者が進捗を見られる仕組みがある学校を選ぶ |
| 社会との接点が減る | 学校以外の場をひとつ持つ(バイト・部活・オンラインの活動) |
私の経験から
私自身、このうち2つに助けられました。在籍年数を4年にしたことと、アルバイトという学校以外の場を持ったことです。
この2つがなかったら、たぶん卒業できていなかったと思います。
学校選びで確認すべき項目は通信制高校の選び方に7つのチェックポイントとしてまとめました。
向いている人・慎重に考えたい人
最後に、判断できる形にまとめます。
チェックリスト
通信制が力を発揮しやすい状況
- 全日制のペースについていけない事情がある(体調・気持ち・人間関係)
- やりたいことがあって、時間を確保したい
- 前の環境を仕切り直したい
- 3年にこだわらず、時間をかけてでも卒業したい
注意したいこと
慎重に考えたほうがいい状況
- 空いた時間に入れるものが、いま何もない
- 家族を含めて、生活リズムを支える人が誰もいない
- 「とりあえず通信制でいいや」という消去法だけで決めようとしている
ただし、これらに当てはまるからといって通信制が不可能というわけではありません。上の表の「打てる手」を先に組んでおけば、条件は変えられます。
「慎重に考えたほうがいい状況」に当てはまってしまって、そこで止まっている方もいると思います。その場合は「向いてない人」を性質ではなく条件の話に置き換えた記事のほうが読みやすいかもしれません。足りないものを何で埋められるかを、全国調査の数字と一緒に整理しています。
私自身、「行きたい自分」と「行きたくない自分」の両方を抱えていて、その間にあった選択肢が通信制でした。二択で苦しんでいるなら、第三の道があるということだけは知っておいてほしいと思います。
ここまでの内容は、資料請求で届く公式の学校案内と募集要項で確かめられます。
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まとめ
通信制高校のメリットとデメリットを、3つの時間軸で整理しました。
- 在学中のメリットは「調整できること」、デメリットは「進めなければ進まないこと」。同じ性質の裏表です
- 卒業直後は、全日制と同じ高卒資格が得られます。推薦枠もあります
- 20年後に私が挙げられる実害は、卒業年が同学年とずれたことだけでした
- 一方で、挫折した経験そのものが強みになるという、在学中には想像しなかったメリットがありました
- ただし心残りはあります。後悔していないこととは別の話です
- デメリットの多くは、入学前の設計で減らせます
メリットとデメリットの一覧は、どのサイトでも似たものが読めます。でも、その学校で実際にどう運用されているかは、資料や個別相談で確かめるのが確実です。
実際に資料を取り寄せると何が届くのかはN高に資料請求してみたに、通信制の仕組みそのものは通信制高校とは?に、学校選びの手順は通信制高校の選び方にまとめています。
